後立山南部(長野) 爺ヶ岳中峰(2669.9m)、南峰(2660m)、北峰(2631m) 2022年5月15日  カウント:画像読み出し不能

所要時間 3:03 柏原新道登山口−−4:04 ケルン−−4:15 登山道を離れる(標高1790m付近)−−4:20 爺ヶ岳南尾根(標高1830m付近)−−6:36 爺ヶ岳南峰−−6:59 登山道を離れる−−7:02 爺ヶ岳北峰−−7:05 登山道−−7:23 爺ヶ岳中峰 7:45−−7:57 爺ヶ岳南峰−−9:22 八ッ見ベンチ(登山道に合流)−−9:45 柏原新道登山口

場所長野県大町市/富山県中新川郡立山町
年月日2022年5月15日 日帰り
天候曇。北西の強風
山行種類残雪期の一般登山
交通手段マイカー
駐車場登山口前に駐車場あり
登山道の有無冬道(爺ヶ岳南尾根)は一部踏跡程度あり
籔の有無冬道(爺ヶ岳南尾根)は灌木や笹がはみ出た場所もある
危険個所の有無無し
冬装備軽ピッケル:出番なし  10本爪アイゼン:ルートを選べば出番無し。下山時には使わなかった
山頂の展望南峰、中峰、北峰とも邪魔するものがなく晴れれば大展望
GPSトラックログ
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コメント週末の天候の都合で残雪期の爺ヶ岳へ。往路では登山道と斜面が広範囲に雪に覆われるようになった標高1790m付近で登山道を離れて残雪を伝わって南尾根に上がり、下山時は最初から最後まで南尾根を歩いた。南尾根入口は八ッ見ベンチ(標高1620m)で頭上に多数の目印あり。多少笹があったりするが明瞭な道が続く。2320m峰付近は東側の残雪が豊富で尾根上には冬道は無く激藪であり、ここの雪が溶けたら苦労しそう。他は雪が無いところに冬道が続いていてアイゼン不要だった。稜線の登山道も雪は皆無だった。冷たい北西の風が強かったが高曇りで視界は良く、南ア深南部の池口岳や尾瀬の燧ヶ岳、至仏山、日光白根、越後駒ヶ岳なども霞みながらも見えていた。この日は私の他に登ってきた人は計6人で、2320m峰東側で幕営していた3人パーティとも遭遇した




登山口前駐車場。車は計3台 八ッ見ベンチ(標高1620m)。帰りは南尾根からここに出た
標高1660m付近。登山道に雪が現れる 扇沢駅の光
ケルン(標高1750m)。この先は固い残雪でアイゼン装着 先人の足跡。雪はガチガチに凍っている
標高1790m付近。ここから南尾根を目指す 上方向も雪がつながっている
標高1830mで南尾根に乗る。踏跡あり 枝打ちした跡
ショウジョウバカマ 明るくなってきたが広範囲で曇り
1917m肩付近 標高1950m付近
標高2130m付近 標高2160m付近。文字が消えかけ読めない
標高2250m付近 標高2300m付近
2420m峰のテント。この先でこの住人の3人と遭遇 2420m峰から見た爺ヶ岳
標高2420m付近から見た松本盆地方面
標高2340m付近。森林限界を超える 僅かに下ると矮小なシラビソ樹林へ
標高2350m付近。完全に森林限界を超えた テント泊の3人組
種池山荘。夏道は完全に積雪に埋もれる 標高2470m付近
爺ヶ岳南峰山頂 爺ヶ岳南峰から見た爺ヶ岳中峰、北峰
爺ヶ岳南峰から見た南東方向以外の展望(クリックで拡大)
爺ヶ岳南峰から見た南東方向。曇って入るが南ア深南部の池口岳まで見えた
爺ヶ岳南峰〜中峰間の鞍部 今回は初めて爺ヶ岳北峰に登ることに
霜柱 爺ヶ岳中峰北側から見た爺ヶ岳北峰
北峰の西側を回り込む 北峰の北側で登山道を離れて北峰を目指す
爺ヶ岳北峰山頂 爺ヶ岳北峰山頂から北を見ている
爺ヶ岳北峰から見た360度パノラマ展望写真(クリックで拡大)
北峰北側の2610m鞍部から北峰を見上げる 登山道へ戻る
中峰分岐 爺ヶ岳中峰山頂
爺ヶ岳中峰から見た360度パノラマ展望写真(クリックで拡大)
爺ヶ岳中峰から見た大天井岳、槍穂
南峰に登り返す 爺ヶ岳南峰再び
爺ヶ岳南峰から見た種池山荘へ続く稜線。種池山荘から下る夏道は完全に雪の下
南峰から南尾根を下り始める 標高2370m付近
標高2330m付近 標高2320m付近。東側の残雪に乗らないと激藪
標高2320m付近。東側の残雪に乗る 2320m峰のテント跡
標高2300m付近 標高1980m付近。3人パーティーが登っていった
ショウジョウバカマ おそらくイワナシ
標高1950m付近。穴の下は土が流出してスカスカ。そのうち崩れるだろう 標高1930m付近の標識
標高1917m肩。南東方向の尾根入口に通行止めロープあり 標高11820m付近
標高1650m付近 八ッ見ベンチ(標高1620m)の南尾根入口の目印
八ッ見ベンチは倒木でネズコの枝が登山道を塞ぎかけている タムシバ
石楠花 今年初のイワカガミ
タチツボスミレか? オオカメノキ
対岸の駐車。数台の車あり 登山口前の駐車場は空きあり


 最近は土曜日に雨が降って日曜に回復するパターンが多い。私の年齢ほどになると真面目な登山の翌日の会社はきつく、土曜日に山に登って日曜日にのんびり休養するのがパターンであるが、天気がそれを許さない。土曜日に冷たい雨の中を登るのはイヤで、日曜日に登るならわざわざ時間をかけて遠くに出かけるのはもったいないので、近場で済ませることにした。

 その近場の山だがシーズンには早いが北アルプスに登ることにした。残雪期の北アルプスは本当に久しぶりだが、今年も残雪シーズンはあちこちに登っているので、よほどのルートでなければ体力的/技術的に問題なかろう。

 どこに登るかだが、車で時間がかからず歩きでも時間が比較的かからない爺ヶ岳とした。針ノ木岳も候補に上がったが予報では風が強く、雪渓を吹き降りる風はただでさえ冷たいのに風が加わると寒いくらいだろう。それに風向きは北西から北と予想され、針ノ木岳だと稜線に出てから山頂まで風に吹かれっぱなしだろう。その点、爺ヶ岳では南尾根を登り切って南峰に出るまでは稜線が風をブロックしてくれるだろう。

 ただし、今回使うのは夏道ではなく冬ルートである爺ヶ岳南尾根だ。ここは夏道があるわけではなく、おそらく両側から藪がはみ出ている可能性が高く、藪が濡れた状態ではあまり入りたいとは思わない。土曜日の雨がいつ上がるか(藪が日曜朝に渇いているか)が問題だ。山用のゴアは劣化が進んで防水性能は悪いので、下界用の雨カッパを持つことにした。ゴアもそろそろ新規購入するか。

 爺ヶ岳登山口の扇沢まで自宅から約1時間しかかからないので土曜夕方に出発。下界でも風が強く山の上が強風なのは確実で、これだと後立山の稜線はガスの中かも。大町市街地を避けて扇沢へ向かうと、雲が多いがその隙間から鹿島槍が見えている。これなら藪は濡れていないだろうと一安心。また、蓮華岳山頂付近でも新雪は見られず、ラッセルの心配はない。

 柏原新道登山口前の駐車場には2台の車しかなかった。逆に雨と強風の今日の天気で人が入っているのが驚きだ。頭上は厚い雲に覆われて稜線の様子は全く見えない。駐車場の端に車を突っ込んで酒を飲んで寝た。

 翌朝は2時過ぎに起床。今回は道が無い南尾根を登るので真っ暗な中を登るのは避けるために出発は午前3時過ぎとした。どこまで登ると登山道が残雪に覆われるようになるのか不明だが、明るくなる4時半くらいまでは雪が本格的に出てこないで夏道を歩けるかな。

 出発時も頭上は雲に覆われて星は全く見えないし、登山口でも風を感じるのはちょっとイヤらしく稜線は間違いなく強風だろう。でも風が吹いているということは藪が夜露に濡れている心配は無いということだ。LEDライトを点灯して出発。

 登山口の登山指導所のプレハブは年中無休で据え付けられたままであるが、人が入るのは夏山シーズンだけ。登山口付近の両側にはまだ草はほとんど生えていない。登山道は枯れ葉や枯れ枝が落ちた雪解け直後のような場所も見られ、まだ人の出入りは少ないようだ。とはいえしばらくは全く雪は無い。雪が初めて出てきたのは標高1650m付近で、斜面には全く雪は無いが登山道にだけ残った状態だ。登山道の雪を踏まなければならない状況になったのは標高1730m付近まで上がってからで、雪はカチカチに凍って表面はツルツル。雪面が斜めになった場所ではアイゼンが必要そうだ。最近登っている山とは標高が違うので気温は低めで、おそらく0℃を僅かに上回る程度だろう。そうでないとこれだけ雪が固く締まるはずがない。

 標高1620m付近の「八ッ見ベンチ」はまだ標識は取り付けられていない。柏原新道で見かける黄色い標識は種池山荘の営業開始以降に取り付けられるのであった。年中付けられたままの標識は「ケルン」と標高2000mの「一枚岩」だけだと思う。

 標高1750mのケルンでは谷側の斜面が開けて崖状になっているが、イヤらしいことにここに登山道の幅いっぱいの残雪が残り、斜めになった雪面を歩く必要があった。ここで滑れば崖下転落なので面倒だがアイゼンを装着。ここからは扇沢駅を見下ろすことができるが背後の針ノ木岳近辺も見通せる。まだ微かに明るくなったかどうか程度だが稜線がはっきりと見えており、少なくとも針ノ木岳山頂付近に雲がかかっていないことが判明。おそらくこれなら爺ヶ岳も雲の下で展望が期待できそう。

 崖を通り過ぎると雪が消える箇所もあるが、みるみるうちに残雪量が増えて標高1790m付近から斜面全体が残雪に覆われて夏道が完全に埋もれるようになった。夏道がありそうな場所に雪面をトラバースするように足跡が残っているが、このままトラバースしてもおそらくずっと残雪が続いて滑落の危険性があるので、ここで夏道を離れて南尾根を目指すことにした。幸いにして上方向にも残雪が延びていて藪は回避できる。

 傾斜が緩んで登りきると雪が消えて明瞭な踏跡が登場。ここが爺ヶ岳南尾根だ。南尾根は歩いたことがあるがその時はもっと季節が進んでからであり、南尾根に出たら森林限界を越えていて明瞭な道があった。樹林帯でも道はしっかりしていて問題なさそうだ。種池山荘や行政の手で南尾根を整備するようなことはないと思うが、明らかに邪魔な木を伐採したきれいな切り口も見られたので、全く手が入っていないわけではないらいい。標高が低い場所では薄い笹が見られるが標高が上がると笹が消えて深いシラビソ樹林で藪は皆無で夏道があるのでは?と思えるほど良好な状態だ。標高2160mでは標識が登場するが、文字がほとんど消えて「南尾根」しか読めなかったりする。

 南尾根は夏道と違って残雪は極端に少なくて、まとまって雪が出てきたのは標高2260m〜2320m付近だけ。この区間以外は雪の上を歩くことはほとんど無かった。アイゼンが必要だったのはこの区間と夏道から南尾根に出る箇所、ケルンの崖の通過だけ。帰りは残雪状況が分かったので、できるだけ残雪を避けて歩いたらアイゼン無しで下ることができた。

 残雪が豊富な2320m峰では2つのテントが登場。西側は矮小な樹林が並んで西〜北風がブロックされる場所だった。おそらく昨日の悪天の中を登って幕営し、天候が回復した今日に出かけているのだろう。行先は鹿島槍かなぁ。テントは空っぽのようで物音一つしなかった。

 傾斜が緩い間は尾根東側に広い残雪が続くのでそれを歩き、残雪が切れる直前に尾根に戻ると明瞭な道が再び現れた。ここは見覚えがある風景で、おそらく前回も通った場所であろう。森林限界を越えてハイマツが覆っており、その中に踏跡が延びている。ここは緩やかな微小ピークを構成しており、僅かに下ると背の低いシラビソ樹林に切り替わり、森林限界ぎりぎりの高さらしい。

 標高2350m付近から登りに変わると本格的に森林限界を突破して、矮小なダケカンバを除いて南峰まで立木は無く、砂礫の尾根にジグザグに道が付いているのが見える。この付近まで上がると西寄りの非常に冷たい風が吹き付けて防寒着が必要なくらい寒さを感じるようになったので、上にはウィンドブレーカを着てネックウォーマも追加した。手袋は防水防寒手袋なので風は通さない。

 森林限界を越えた斜面を登っていくと上から3人の男性が下ってきた。テントの主でどうやら爺ヶ岳を往復したようだ。当初から爺ヶ岳が目的だったのか、それとも本当は鹿島槍だったが悪天で日程がずれたために爺ヶ岳に縮小したのかは分からない。どちらにしてもわざわざ残雪期に登るのだから一般登山者よりは経験豊富なのだろう。

 ちょっとの間立ち話して別れ、私は爺ヶ岳を目指す。もう南峰は目の前だが、どうも連休中の疲労がまだ抜けていないようで、今日は出発時から足が重くイマイチペースが上がらない。それでも爺ヶ岳程度なら疲労でたどり着けないほどではない。連休最後の赤石山、湯ノ沢ノ頭の方がずっときつかったなぁ。

 傾斜が緩むと爺ヶ岳南峰山頂に到着。北西の風は非常に強くピークではよろめくほど。それでも山頂から見える山々には全く雲がかかっておらず、寒気が弱いか空気が乾燥しているようだ。立山、剱岳はまだまだ白い。劔がこれほど白いのは東から見ているからだろうか。それと比較して槍、穂高は黒が目立つ。ずっと南に見えている南アはほとんど白さを感じないのは距離のせいだろうか。八ヶ岳は全く白いものが見えない。

 あまりの風の強さに体感温度はさらに低下し、岩の影に隠れて防寒装備を追加。ジャンパーを着たまま歩くなんて冬場でもほとんどないのになぁ。足は疲れているがここまで来たからには最高峰の中峰に登るのは決定で、せっかく人がいないシーズンなのでこれまで登ったことが無い爺ヶ岳北峰にも登ることにした。南峰から見る北峰は稜線東側にたっぷりの残雪があるのでハイマツ藪を避けられるだろう。

 稜線北側の登山道に下ると風の勢いがかなり弱くなる。風上側の斜面でも稜線の影響で風が弱まることがあるのかとちょっと感心。しかし鞍部で再び強風に。南側の残雪はまだまだ盛大にあってこの下に急斜面が埋まっているのが信じられないくらいだ。

 鞍部を越えると再び風が弱まってほっとする。登山道には足の長い霜柱がびっしりと埋め尽くしており全く溶けていない。まあ、丹沢と違ってここは土ではなく砂礫なので霜柱が溶けても泥沼状態にはならないだろうけど。霜柱には足跡は皆無なので今日ここを歩くのは私が最初らしい。

 帰りに中峰に立ち寄ることにしてまずは北峰に向かう。中峰から先に行くのはいったい何年ぶりだろうか。鹿島槍に登るときはいつも赤岩尾根だからなぁ。一度高度を落として登り返し、登山道は北峰の山頂は西から巻いてしまう。山頂真西は傾斜がきついので北に行き過ぎた箇所からガレてハイマツが無い場所から斜面に取り付く。足元が不安定だがハイマツよりはましだ。しかし稜線が近付くとそれまで寝ていたハイマツが高さ1mくらいの立った状態となりろくでもない激藪に。さすがにこれを山頂まで漕ぐのは大変なので稜線の反対側に残る雪に逃げて北峰のてっぺんまで雪の上を歩いた。

 爺ヶ岳北峰山頂も深いハイマツ藪の中で人工物は無かった。ハイマツは1m程度の高さなので展望の邪魔にはならず360度の大展望だ。北側眼下には冷池山荘。小屋のかなりの部分は雪から出ているように見えた。全く雪が見えないテント場にはテントは皆無。まあ、昨日の天気を考えれば当然だろう。それにこの時期に幕営するなら西寄りの風がもろに吹き付けるテント場ではなく、テント場の先の稜線東側の雪の上の方が快適だろう。

 帰りは北峰北側の2610m鞍部まで残雪を伝い、ハイマツの稜線直上を越えて藪が無い反対側(西斜面)を下って登山道に出た。中峰に向かって登り返していると南峰方向からやってくる人影が1名あり。この時刻にここにいるということは私と同じくらいの真っ暗な時刻に出発したとしか思えない。私は縦走路を離れて中峰への分岐に入ったが、やってきた登山者は鹿島槍方面へ縦走路をそのまま行くのかと思ったら私と同じく中峰へ登っていく姿が見えた。あちらの方がスピードが速く私より先に中峰山頂に到着していた。

 中峰から東の展望は空気の透明度が高ければ奥日光の山々が見えるが、今日はかろうじて日光白根が見えたが男体山や女峰山は全く見えなかった。至仏山、燧ヶ岳、越後三山の中ノ岳と越後駒ヶ岳は霞んでいるが見えていた。ここから見る志賀高原の山々には白いものは見えないが、おそらくシラビソ樹林帯の下にはまだ雪が残っているだろう。

 先客は単独の男性で冷たい強風を避けて山頂より南に下った場所で休憩していたが、トレランのようなかなりの軽装でこの気温と強風ではかなり寒そうだった。話を聞いたら金沢在住とのことで、何時に出発したか聞いたらほぼ5時とのことで約2時間でここまで上がってきていた。登山と言うよりトレランに近いようだ。できれば鹿島槍まで足を延ばしたいと計画していたようだが、あまりの寒さでここで引き返すことにしたとのこと。予報では強風はまだしばらく続くし、気温は逆にこれから低下することになっているのでその判断は正解だろう。毛糸の帽子も無しでこの風はきつすぎる。私なんかフルフェイスの防寒マスクに毛糸の帽子とネックウォーマーでも寒いくらいだった。

 あまりの寒さで喉の渇きはゼロ。ただし腹は減ったので飯は食った。パンの袋を開封するのに手がかじかんで苦労したくらい冷え込んでいた。残雪期の山で幕営した際でもここまで酷かったことはなく、想像以上の体感温度の低さだった。今回は使い捨てカイロを持たなかったのは失敗だった。

 金沢の男性は一足先に出発し、遅れて私も出発。風が当たらない稜線の影から出ると寒さが一気に押し寄せる。中峰山頂を下って縦走路に達すると風が弱まるが、鞍部と南峰ではまた強風。種池山荘に続く県境稜線は森林限界を超える標高2470m以上は雪が無いが、小屋の周囲は豊富な残雪があり、南斜面の夏道の形跡は全く読み取れなかった。

 南峰から爺ヶ岳南尾根に入るがしばらくは強風が収まらずに寒さに震えて鼻水を垂らしながら歩く。でもある程度まで標高が下がると森林限界で遮蔽物が無いのに急に風が弱まる。おそらく県境稜線でのブロックが効いてくるのだろう。

 下山はアイゼンを装着するのが面倒なので、できるだけ雪に乗らないよう尾根東側に残雪が現れても尾根直上の踏跡を辿った。しかし傾斜が緩まる標高2330mn付近の岩の重なった地帯で尾根直上の踏跡は濃いハイマツの藪に消えてしまう。藪が無い岩の積み重なりが続く西斜面を進んだがすぐにこちらもハイマツの激藪を化し、地面に足が付かないほどのハイマツ藪を登って稜線に出るがこれまた踏跡無しで稜線東側の残雪帯に逃げた。おそらくここは遅くまで残雪が残るのでハイマツの中に道ができないのだろう。逆に言えばここの雪が消える頃には冬ルートは賞味期限切れということか。

 2320m峰に張ってあったテントは撤収済みですれ違った3人パーティーは既に下山中。まあ、あれだけの時間差があれば当然だろう。2320m峰南の2310m肩からの下りも豊富な残雪でノーアイゼンで下るのは危険なのでシラビソ樹林の中の藪を下ったが、一部はどうしても急な雪面を下る必要があり、途中にあるシラビソの根開きした穴に滑り落ちて強制停止した。ここが下りで一番面倒な場所だったが、アイゼンを装着していればこんな苦労は無かっただろう。でもアイゼンを脱着する時間を考えれば今回の行動の方が時間はかからなかったのは確かだろう。

 この後は残雪があっても数m程度で傾斜も緩い場所であり(傾斜が緩い場所しか雪は残っていない)、下りでもアイゼンは不要だった。下りの途中で登りのパーティーと2組すれ違った。1組目は夫婦と思われる2人組で、2組目は若い男女の3人組。荷物の量からしてどちらも日帰りであろう。その後にテント泊の3人組に追いついて追い越した。先行して下った金沢の男性には最後まで追いつくことは無かった。

 この時期のアルプス級の山ではまだ花は少ない。最も標高が高い位置で見かけたのはショウジョウバカマで、これは尾根下部まで広範囲で見られた。残雪期の多くの山で見られるイワウチワ、カタクリは皆無。あれはあまり標高が高いところには咲いていないのかも。標高が落ちるとタムシバとオオカメノキの白い花が目立つようになり、石楠花の蕾も多く見られ、さらに標高が下がると開花したものがちらほらとあった。今年初めてのイワカガミが見られたのも標高が低い場所のみで、登山口付近ではタチツボスミレと思われる紫色のスミレが群生していた。

 登山口に到着すると今日山の中で出合った人数よりも車の数が明らかに多かった。登山者だけでなく山菜取りや周辺の観光客が混じっているのかもしれない。対岸の広い駐車場に10台弱、登山口前の駐車場に8台であった。

 真夏のシーズンなら扇沢に下りて水浴びして汗を洗い流すのだが、今回は暑いどころか下山しても涼しいくらいでほとんど汗はかかなかったので着替えが不要なほど。残りの飯を食ってから帰路に就いた。

 翌日は足が筋肉痛。今回の爺ヶ岳より残雪期のテント泊の方が遥かに脚力を使ったはずだが、雪の上を下るのと雪が無い地面を下るのでは後者の方が圧倒的に筋力を使うので、下りが原因で筋肉痛になったのだろう。例年、最初の無雪アルプス歩きの後は必ず筋肉痛が出るのであった。そして例年通り、これでもう筋肉痛になることはないだろう。


 5/16にニュースで知ったことだが、5/12に爺ヶ岳に入山した倉敷市の男性が、私が登った15日になっても下山しないと家族から警察に通報があり、5/16の捜索で標高約1700mの南斜面で遺体で発見されたとのこと。私が下山した時点で捜索を行っているような様子は登山口では見られず、捜索が始まったのはその後と思われる。

 発見現場の「南斜面」というは常識的には爺ヶ岳南尾根の南斜面であろうが、私が歩いた感覚では南尾根上にはほとんど雪は無く、滑落するような場所は南尾根には無いように思えた。あるとしたら唯一まとまった区間で雪が残った2320m峰の南の肩だが、滑落のリスクを把握していれば雪の上ではなく藪との境界や藪の中を歩けばいい。それとも冬ルートを知らずに雪に埋もれた夏道をトラバースして種池山荘の南斜面で滑落したのだろうか。でもあの状況を見ればトラバースを延々と続けるとは思えない。私がこの冬ルートの存在を知らずに残雪期後期に登って夏道が雪に埋もれていた時でも、危険を感じて南尾根を目指して上へルート変更したくらいだ。もちろん、それなりの装備(ピッケル、前爪のあるアイゼン)が必要だが、この時期にアルプスに登る人が軽装とも思えない。現段階では情報不足で滑落の原因は不明だ。

 

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